自分の過去を、強制と困窮の産物として眺めることのことのできる者がいるなら、そうした者だけが過去を、あらゆる現在において最高度に、自分にとって価値あるものとなしうるだろう。というのも、ひとりの人が生きてきた過去とは、せいぜいのところ、輸送の途中で手足をすべてもぎ取られ、いまや貴重な塊でしかない美しい彫像のようなものであって、その人は自身の将来の像を、そうした塊から切り出してゆかねばならないのだから。
    ―ベンヤミン「トルソー」